万博関連で読売新聞がこんな記事を出していた。Y!ニュースより
排ガス中のCO2利用しセメント製造、万博パビリオン「住友館」で採用…「脱炭素建材」世界にアピール
 排ガス中の二酸化炭素(CO2)から製造した「人工石灰石」を原料とするセメントが、来年4月に開幕する大阪・関西万博で本格的に実用化される見通しとなった。住友大阪セメント(東京)が政府の支援を受けて開発を進めており、住友グループのパビリオン「住友館」に採用する。使用する建材のCO2排出量を約20%削減できるという。
 人工石灰石は、住友大阪セメントの工場の排ガスからCO2を回収し、焼却場から出る灰などに含まれるカルシウムを結合して生成する。回収したCO2を利用することで、通常のセメントの製造時に比べてCO2の排出量が減らせる。
 住友館では、建物周囲の側溝や縁石に人工石灰石由来のセメントを使用する。人工石灰石を原料にした絵はがきなどの販売も検討する。このほか、製鉄時に排出される粉末などを原料に、製造過程のCO2を9割削減できるコンクリートも床材に使う。脱炭素につながる建材として世界にアピールする。

 セメントの原料は石灰石であり、大部分は炭酸カルシウムCaCO3である。セメントをつくるときは石灰石を1300~1400℃以上の高温で「焼成」して、CO3部分を飛ばし、また焼成前に混入した粘土由来のケイ素(Si…シリカ)やアルミニウム(Al)などと結合してセメントクリンカーというセメン原料ができるのだが、当然この過程で石灰石由来のCO2が発生する。その他、高温で焼成するので燃料となる化石燃料、それ由来の廃棄物(古タイヤや廃プラスチックなど…パチンコ屋さんから発生する廃パチンコ台もプラスチックの塊なので使われたりする)をぼんぼん燃やすことになるので、そこからも二酸化炭素が発生する。1tのセメントを製造する際に出てくるCO2の量は、770㎏にもなるそうだ。だからセメント生産時に発生する二酸化炭素量を減らすことが「カーボンニュートラル」を達成する一つの方法だとされる。
 一方、記事にある「人工石灰石」とは、セメント工場から出る二酸化炭素を焼却場から出る灰などに含まれるカルシウムの残渣をつかって「回収」する…要するに石灰石を招請してセメントをつくる工程の逆をやって(といっても、CO2とCaを反応させるだけ)CaCO3にしたものだ。(参考:住友大阪セメント セメントコンクリート研究所CaとCO2のデュアル・リサイクル技術)これを石灰石として、普通の石材・建材として使用したり、舗装の路盤材やコンクリート舗装の材料として使うならまだしも、それをセメント原料としてふたたび「焼成」すれば、せっかく捕獲した?CO2をまた大気中に逃がしてしまうことになるではないか?
 これをやるためには、どこかから排ガス中のCO2を捕獲するためのカルシウム残渣を持ってこなかればならない…セメント工場だと、セメント工場から発生する残渣があるだろうが、リンクを見れば償却炉から出てくる焼却灰や生コン工場からのスラッジ、建築廃材としての廃コンクリートを集め、加工して二酸化炭素を取り込みやすい形にして…というところで、ものすごくエネルギーを投入する、すなわち化石燃料を燃やしてCO2を発生させることになる。加えて、ントロピーが増大した排ガス中のCO2
を、再び集めて資源として使える量の人工石灰石(エントロピーが小さい状態)にするのに、短時間でエネルギーをあまり投入しないで作ることは不可能だ。(廃コンクリートを細かく砕き、セメントペースト部に二酸化炭素を長~い時間をかけて吸着させれば、セメントペースト部はCaCO3に戻る…ただし十数年の時間がかかるだろう)かくして住友大阪セメントの技術者が考えていることとは裏腹に、人工石灰石を使ってセメントをつくることを持続すると、その過程で普通に石灰石を使ってセメントをつくるよりもエネルギーを投入することになり、かえって発生する二酸化炭素の量は増えるのだ。
 投入エネルギー量を少なくし、かつ時間をかけずに人口石灰石、そしてそこからセメントをつくるとすると、ホンの少量…万博の展示で使う量…しか作ることができないだろう。かくして展示されたパビリオン「住友館」のみでこの技術は終わる。エントロピー増大則に反する技術は成り立たないから、やめておいた方がエエ(参考:メタネーションなんかやめとけ!

 セメントを使いながら二酸化炭素排出量を減らす有効な技術は、今のところセメントの一部を水和反応を起こして硬化する製鋼スラグなど(製鋼スラグは基本、廃棄物でありそれをつくるときに発生する二酸化炭素は、例えば製鉄の時に発生する二酸化炭素として計上されるので、スラグは二酸化炭素を発生させないことになっている…出てくる二酸化炭素は、運搬や材料の調整時に由来するもののみである)に置き換えるぐらいしか有効な技術はない。あとはできるだけ、セメントを使わないことだ。