震災で施工不良が判明したお話しに、「コンクリートの文明史」からこんな記述を引用している。
 倒壊した新幹線高架橋の柱は、施工当初から二分されており、一体化していなかった。
 土木構造物でも建築構造物でも、十数メートルの高さがあるコンクリート柱は通常、何回かに分けて施工される。仮に、5mごとに施行していくとすると、まず一番下から5mのところまで型枠・鉄筋を組み(鉄筋は普通それ以上の高さまで組み立てる)、5mの高さまでコンクリートを打設する。コンクリートが硬化したら、型枠をばらして次の5mまで型枠・鉄筋を組みたて、そこにコンクリートを打設する。
 固まってしまったコンクリートの上に、そのままコンクリートを打ち込んでもその部分は一体化しない…それが「施行当初から二分され」ていた理由である。固まったコンクリートの上に、新たにコンクリートを打ち込むときには「打ち継ぎ処理」をしなければならない…件の新幹線の高架橋は、その処理を怠るという施工不良があったということだ。開業ギリギリの工期に追われ、手抜きをしたということだろう。
 ではコンクリートの柱を一体化させる…固まったコンクリートの上に新しくコンクリートを打ち込むときにはどうすればよいのか?コンクリートは水、セメント、砂・砂利(砕石)といった、密度・比重の違う材料で構成されている。また骨材には通常、微粒分が付着しており、微粒分の中には非常に密度の小さいゴミのようなものも含まれている。
 コンクリートを打設してしばらくすると、水分のみが上昇してくる…コンクリートを構成する材料のうち、水が一番密度・比重が小さいから、ある意味当然だ。これを「ブリージング水」という。ブリージング水が骨材中の、密度の小さい微粒分やセメント粒子もまきこんで、コンクリートの表面をうっすら覆う形になる。それがそのまま固まると、本体のコンクリートより脆弱な薄い層ができる…これを「レイタンス層」もしくは単に「レイタンス」と呼ぶ。
 実は新旧のコンクリートを一体化させるには、このレイタンス層を除去してやればよい。弱層の上にそのままコンクリートを打ち込むから、一体化しないのである。「レイタンス処理」の方法は、硬化したコンクリートの表面だけを削り取って、粗骨材(砂利・砕石)の角が見えるようにざらざらな表面にしてやるのだ。教科書に書かれている具体的な方法は、小型ののみどによるチッピングや、金属のブラシでこすり出すという方法も記載されているが、より確実な方法はコンクリート打設終了後すぐに「遅延剤」という、セメントの硬化を遅らせる薬剤を表面に散布し、翌日にジェット水で洗えば、表面のレイタンス層は剥がれ落ちて、ざらざらの表面が現れるのだ。実際、柱には鉄筋が多く配置されているため、硬化したコンクリート表面を人が入り込んでチッピングしたりブラシでこすったりすることは大変だから、「遅延剤+ジェット水」でレイタンス処理を行うことがほとんどである。(これをグリーンカット、グリーンカット工法と呼ぶこともある)
 
 こんなのでも面倒だ、翌日、ジェット水で流す手間がいるじゃないか!(だから新幹線高架橋で手抜きが行われたのである)という輩もいるので、20年ぐらい前から「レイタンス層を強化する」という触れ込みの薬剤を、コンクリート打設後に散布するという工法が現れた。そういった薬剤を開発したメーカーや施工業者から、自社の試験データ込みで薬剤の使用を”提案”してきたこともあるが、私の会社で試験してみると、「割裂引っ張り試験」や「透水性試験」で比較しても、通常のレイタンス処理(グリーンカット工法)を行ったケースよりも効果がでていないことが判明したため、採用を見送ったケースがほとんどである。今、おそらくその工法はほとんど日の目をみていないだろう。

 なお、長いコンクリートの梁や橋げた、床版を1回で施工せず、分割してコンクリートを打ち込むケーズもある。そういったときにできる「鉛直打ち継目」も、基本的には同様にコンクリートのつるつるの面を、骨材の角が見えるざらざらな表面にしてから打ち込む。教科書的にはそこに「モルタルを塗り込んで」一体化させると書いてあるが、鉄筋も錯綜しているところでそんな面倒くさいことはしない。型枠の表面に「遅延剤」を塗っておくか、遅延剤をしみこませた紙を張っておき、打ち継ぎ部のコンクリートの硬化を遅らせ、ジェット水で洗い流してざらざらにするというのが一般的である。その他、打ち継ぎ部に荷物を梱包するときに使う空気の入った緩衝材…プチプチというヤツ…のようなものを張り付けておくと、型枠を外した時に凸凹の面が現れる…この面に新しくコンクリートを打ち込んでも、レイタンス処理をしたのと同様の強度・耐久性が出ることはわかっているので、これはよくつかわれる。なお、いくつかのプレキャスト部材をPC鋼材に導入した緊張力で一体化させる構造では、プレキャスト部材間の接合には接着剤を使用することもある。また、ブレキャスト部材の上に新しくコンクリートを打ち込んで一体化させる場合では、新しく打ち込むコンクリートが降れる面はあらかじめ「ざらざら」になるよう表面処理を行っておく必要がある。

 まぁ、こんなわけで、コンクリートを一体化させるのはなかなか面倒くさい…ということである。