少し前だが、SNSでこんなものが流れてきた…
「二酸化炭素(CO2)と水素を結合させてメタンガスを合成する技術は、1995年に日立造船と東北大学が世界で初めて開発しました。今、大阪ガスはコストを90%カットできる技術を実用化し、メタンガス販売を行っています。」
「二酸化炭素(CO2)と水素を結合させてメタンガスを合成する技術は、1995年に日立造船と東北大学が世界で初めて開発しました。今、大阪ガスはコストを90%カットできる技術を実用化し、メタンガス販売を行っています。」
(4月8日TBSラジオ『全国朝8時』)
これはどうゆうものか?二酸化炭素から都市ガスの主成分であるメタンガスを合成できれば、素晴らしいじゃないか!と思われるかもしれない。で、検索してみるとこんなものがあった。
プレスリリース(2021年1月25日)都市ガスの脱炭素化に貢献「革新的メタネーション」実現のキーとなる新型SOECの試作に成功~水素・液体燃料などの高効率製造にも活用可能な技術の開発~
(前略)「2050年カーボンニュートラルの実現」に向けて、CO2と水素から都市ガスの主成分であるメタンを合成する「メタネーション」と呼ばれる技術が注目されています。メタネーションにより、既存の都市ガス供給網やガスを使用する機器・設備を引き続き使用しながら脱炭素化を実現できます。当社のエネルギー技術研究所(大阪市此花区酉島)は、CO2と再生可能エネルギーから高いエネルギー変換効率でメタンを合成できる可能性がある革新的なメタネーション(SOECメタネーション)技術の基礎研究に取り組んでいます。(以下略)
「メタ―ネーション」技術の概要や、詳細についてのpdf
要は再生可能エネルギーで作った電力をもとに、水と二酸化炭素からメタンガスを作ることで、二酸化炭素排出量削減を行おうとするものだ。この過程でSOEC(固体酸化物形電解セル;燃料電池の逆デバイス)を使い、電力エネルギーで水と二酸化炭素を電気分解し、水素と一酸化炭素にしてからメタンを合成する。プレスリリースは「低コストとスケールアップに適した新型のSOECの実用サイズセルの試作に国内で初めて成功」したというもの。
で、水と二酸化炭素の電気分解過程は吸熱反応、水素と一酸化炭素からメタンを合成する時は発熱反応だから、後者の熱を前者に利用することで、変換効率を85~90%が期待されるというものだ。だから赤字の紹介文(4月8日TBSラジオ『全国朝8時』)の記述はいささか不正確でもある。まだ大阪ガスはこの技術を使って「メタンガス販売を行って」いるわけではない。
ぱっと見ると、スゴい技術のように見えるが、ダマされてはいけない!
「変換効率85~90%」とあるが、何の何に対する変換効率なのか?よくわからないが、おそらく投入する「再生可能エネルギー」電力に対し、得られるメタンガスのエネルギー量のことなのだろう。それでも上限9割である。
当たり前の話であるが、なにかにエネルギーを投入してエネルギーを「蓄え」それをまた取り出してもエネルギーは増えたりはしない。むしろ蓄えたり取り出したりする時に損失が出る…エントロピーが増大する…ので、変換効率は1より大きくなることはない。
分かりやすい話をすると、水を電気分解して水素と酸素を取り出す時に使う電力エネルギーをe1、その同じ量の水素と酸素から燃料電池で取り出した電力エネルギーをe2とすると、必ず
e2 < e1
となるのである。(このへんの詳しい話は、工業化社会システムの脱炭素化は不可能pdf参照)
メタネーションの技術は水の電気分解より複雑であるので、メタンを作るのに投入する「再生可能エネルギー」量は、作られたメタンを燃焼して得られるエネルギーよりも大幅に大きくなるだろう。加えて詳細のpdf5ぺージの絵には、もうひとつ別のエネルギー投入量が記述されていない。
それは反応のキモになる、SOECを製造する時に使うエネルギーと、それから空気中にある二酸化炭素を集めるエネルギーである。これらを考慮すれば、おそらく「変換効率85~90%」というのは、凄く難しいだろう。それ以前に、85~90%の変換効率が可能だったとしても、結局は投入した「再生可能エネルギー」を1割ほど無駄にしていることになる。85~90%の変換効率が無理ならば、エネルギーの無駄はもっと大きくなる。
不安定な「再生可能エネルギー」を、安定したメタンの形で蓄えておけるという「メリット」を強調する意見もあるだろうが、太陽光や風力で発電される不安定な電力は、そもそもメタネーションを行うプラントでもそのまま使うことは出来ない。プラントで使うためには、一定の蓄電装置を使って定格・定圧の電力が取り出されなけれならない。それだったら、その蓄電装置から直接、エネルギーを取り出したほうが効率が良いわけだ。
もちろん、都市ガスとしてのメタンの需要はあるだろう…だが高価な「再生可能エネルギー」をふんだんに使ってメタネーションで作られる高価な都市ガスの価格は、普通に化石燃料として採掘され運ばれてくる天然ガスから作られる都市ガスの価格には太刀打ちできない。「二酸化炭素を出す天然ガスの採掘を禁止する!」か、天然ガスが枯渇するかすれば別だが…
化石燃料が無くなれば、再生可能エネルギーの生産も出来ない‼
考えてもみられよ、太陽光パネルや風力発電装置、その周辺の制御装置、そこに使われる半導体その他、今のところ化石燃料を大量に使った工業・鉱業がなければ生産できないのである。そして「再生可能エネルギー」を使って作られる電力価格が、普通に火力発電で発電した電力価格に太刀打ちできないのは、そこに火力発電と同等の資源を投入しても、火力発電より少ない電力しか得られない…逆に言うと再生可能エネルギーで電力を作ると、火力発電より多く化石燃料を使用することになる!ということだ。
「メタ―ネーション」をいくらやっても、投入したエネルギーよりも取り出されるメタンから得られるエネルギーは少なく、ムダである、投入エネルギーが仮に火力発電から得られる電力ならば、そこで燃やす石炭や石油を直接使った方が効率がいいし、「再生可能エネルギー」から得られる電力であったとしても、その電力を得るためにより化石燃料を消費することになる…メタネーションをやればやるほど、天然ガスを直接使っている以上に化石燃料を消費することになり、二酸化炭素削減「カーボンニュートラル」なんぞにはならないのだ!
これはどうゆうものか?二酸化炭素から都市ガスの主成分であるメタンガスを合成できれば、素晴らしいじゃないか!と思われるかもしれない。で、検索してみるとこんなものがあった。
プレスリリース(2021年1月25日)都市ガスの脱炭素化に貢献「革新的メタネーション」実現のキーとなる新型SOECの試作に成功~水素・液体燃料などの高効率製造にも活用可能な技術の開発~
(前略)「2050年カーボンニュートラルの実現」に向けて、CO2と水素から都市ガスの主成分であるメタンを合成する「メタネーション」と呼ばれる技術が注目されています。メタネーションにより、既存の都市ガス供給網やガスを使用する機器・設備を引き続き使用しながら脱炭素化を実現できます。当社のエネルギー技術研究所(大阪市此花区酉島)は、CO2と再生可能エネルギーから高いエネルギー変換効率でメタンを合成できる可能性がある革新的なメタネーション(SOECメタネーション)技術の基礎研究に取り組んでいます。(以下略)
「メタ―ネーション」技術の概要や、詳細についてのpdf
要は再生可能エネルギーで作った電力をもとに、水と二酸化炭素からメタンガスを作ることで、二酸化炭素排出量削減を行おうとするものだ。この過程でSOEC(固体酸化物形電解セル;燃料電池の逆デバイス)を使い、電力エネルギーで水と二酸化炭素を電気分解し、水素と一酸化炭素にしてからメタンを合成する。プレスリリースは「低コストとスケールアップに適した新型のSOECの実用サイズセルの試作に国内で初めて成功」したというもの。
で、水と二酸化炭素の電気分解過程は吸熱反応、水素と一酸化炭素からメタンを合成する時は発熱反応だから、後者の熱を前者に利用することで、変換効率を85~90%が期待されるというものだ。だから赤字の紹介文(4月8日TBSラジオ『全国朝8時』)の記述はいささか不正確でもある。まだ大阪ガスはこの技術を使って「メタンガス販売を行って」いるわけではない。
ぱっと見ると、スゴい技術のように見えるが、ダマされてはいけない!
「変換効率85~90%」とあるが、何の何に対する変換効率なのか?よくわからないが、おそらく投入する「再生可能エネルギー」電力に対し、得られるメタンガスのエネルギー量のことなのだろう。それでも上限9割である。
当たり前の話であるが、なにかにエネルギーを投入してエネルギーを「蓄え」それをまた取り出してもエネルギーは増えたりはしない。むしろ蓄えたり取り出したりする時に損失が出る…エントロピーが増大する…ので、変換効率は1より大きくなることはない。
分かりやすい話をすると、水を電気分解して水素と酸素を取り出す時に使う電力エネルギーをe1、その同じ量の水素と酸素から燃料電池で取り出した電力エネルギーをe2とすると、必ず
e2 < e1
となるのである。(このへんの詳しい話は、工業化社会システムの脱炭素化は不可能pdf参照)
メタネーションの技術は水の電気分解より複雑であるので、メタンを作るのに投入する「再生可能エネルギー」量は、作られたメタンを燃焼して得られるエネルギーよりも大幅に大きくなるだろう。加えて詳細のpdf5ぺージの絵には、もうひとつ別のエネルギー投入量が記述されていない。
それは反応のキモになる、SOECを製造する時に使うエネルギーと、それから空気中にある二酸化炭素を集めるエネルギーである。これらを考慮すれば、おそらく「変換効率85~90%」というのは、凄く難しいだろう。それ以前に、85~90%の変換効率が可能だったとしても、結局は投入した「再生可能エネルギー」を1割ほど無駄にしていることになる。85~90%の変換効率が無理ならば、エネルギーの無駄はもっと大きくなる。
不安定な「再生可能エネルギー」を、安定したメタンの形で蓄えておけるという「メリット」を強調する意見もあるだろうが、太陽光や風力で発電される不安定な電力は、そもそもメタネーションを行うプラントでもそのまま使うことは出来ない。プラントで使うためには、一定の蓄電装置を使って定格・定圧の電力が取り出されなけれならない。それだったら、その蓄電装置から直接、エネルギーを取り出したほうが効率が良いわけだ。
もちろん、都市ガスとしてのメタンの需要はあるだろう…だが高価な「再生可能エネルギー」をふんだんに使ってメタネーションで作られる高価な都市ガスの価格は、普通に化石燃料として採掘され運ばれてくる天然ガスから作られる都市ガスの価格には太刀打ちできない。「二酸化炭素を出す天然ガスの採掘を禁止する!」か、天然ガスが枯渇するかすれば別だが…
化石燃料が無くなれば、再生可能エネルギーの生産も出来ない‼
考えてもみられよ、太陽光パネルや風力発電装置、その周辺の制御装置、そこに使われる半導体その他、今のところ化石燃料を大量に使った工業・鉱業がなければ生産できないのである。そして「再生可能エネルギー」を使って作られる電力価格が、普通に火力発電で発電した電力価格に太刀打ちできないのは、そこに火力発電と同等の資源を投入しても、火力発電より少ない電力しか得られない…逆に言うと再生可能エネルギーで電力を作ると、火力発電より多く化石燃料を使用することになる!ということだ。
「メタ―ネーション」をいくらやっても、投入したエネルギーよりも取り出されるメタンから得られるエネルギーは少なく、ムダである、投入エネルギーが仮に火力発電から得られる電力ならば、そこで燃やす石炭や石油を直接使った方が効率がいいし、「再生可能エネルギー」から得られる電力であったとしても、その電力を得るためにより化石燃料を消費することになる…メタネーションをやればやるほど、天然ガスを直接使っている以上に化石燃料を消費することになり、二酸化炭素削減「カーボンニュートラル」なんぞにはならないのだ!