前編からの続き
前延長の86%がトンネル区間…これは土木工事を進捗させるうえでネックになるということを書いたが、トンネルばっかりというのは災害、特に地震災害でも問題である。もっとも地震そのものでトンネルがぶっ壊れる…ということはまずない…地下構造は地震の時は安全…という話もある。だが、リニア中央新幹線の場合は違ってくる。
「リニア新幹線と南海トラフ巨大地震(石橋克彦 集英社新書 2021年6月)」によれば、リニア中央新幹線は最大クラスの南海トラフ大地震が起こった時、震度6以上が起こるであろう区域を通過する。1854年の「安政東海地震」および1923年「大正関東地震」で、甲府盆地南西部では震度6~7の震度分布があったとされる。こうしたところをリニア新幹線は通過する。しかもそのあたりは、曽根丘陵断層帯と、糸静線断層帯南部区間という活断層帯があるのだ。
![リニア新幹線と南海トラフ巨大地震 「超広域大震災」にどう備えるか (集英社新書) [ 石橋 克彦 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/1719/9784087211719_1_2.jpg?_ex=128x128)
リニア新幹線と南海トラフ巨大地震 「超広域大震災」にどう備えるか (集英社新書) [ 石橋 克彦 ]
リニア中央新幹線は、南海トラフ地震が起こった際の東海道新幹線のバックアップとしても”期待”されているらしいのだが、この事実を鑑みるとそんな機能は期待できない。(北陸新幹線ならなんとかバックアップの機能は持てそうだ)それどころか、巨大地震で同時にうごくであろう活断層を、何本もリニア中央新幹線は横断するルートになっている。
地震のゆれそのものでトンネルは破壊されなくても、トンネルを通る活断層が動けばトンネルは破壊される。また活断層でなくても、巨大地震に伴う地殻変動…特に沈降が予測されている…が起こっても、線路は甚大な被害を受ける。
問題は、長大トンネルが破壊された場合の”復旧”である…また片側の坑口から入って「掘り直し」をしなければならない。トンネルの内部だけでなく、坑口部での土砂崩落で、坑口から埋まっている…という被害も考えられる。また、営業運転時間内に地震が起これば、リニア新幹線車両が巻き添えをくらって埋まっている…ことも想定される。そして、周辺の地域も震度6~7で被災しているので、高速道路や一般の道路、在来線鉄道にも甚大な被害が出ているだろう。そうした中、東京ー名古屋(大阪)菅輸送にほとんど特価しているリニア中央新幹線の復旧にまでリソースが回るだろうか?
著者、石橋氏は、「最悪の場合には、何ケ所かの大深度地下トンネルや山岳トンネルに閉じ込められた乗客を何日も救出できず、山岳トンネル内の被害や坑口付近の山体崩壊などでトンネル内の列車を引き出せないといった事態になるだろう。リニアの救助・復旧が重大な問題になるが、超広域が第六章で述べるような大震災に見舞われていて、東海道・山陽新幹線をはじめとするJR各社(東日本、東海、西日本、四国、九州)の在来型新幹線や在来線でも多数の被害が生じる。鉄道以外のインフラや都市・国土にも莫大な被害が出ていて、資金・労働力・機材・資材が不足するなかで、鉄道の復旧工事は在来型新幹線や在来ローカル線が優先されるだろう。したがってリニア新幹線の復旧は後回しになり、被害の程度よっては廃線もやむなしという判断を迫られるのではないだろうか。」(p119~120)と記述している。また「私は、南海トラフ巨大地震に対する東海道新幹線のバックアップとしては、次章でみるようにそもそも甲府盆地と名古屋は非常に危険だと思うが、どうしても両地をとおるのであれば、諏訪と伊那谷を経由して明かり区間をできるだけ多くした在来型新幹線方式がよいと考えていた。それでも活断層を回避することはむずかしいだろうが、地震被害を低減でき、被災した場合の救助・復旧の困難さが著しく減るはずである。」(p75)と述べている。
南海トラフ巨大地震で全体的に被災した場合の復旧も、明かり部が多いほどとっかかりやすく、多方向・多方面から進めていけるので、トンネルばっかりということはリニア中央新幹線の弱点であるといえよう。
なお、震災時の乗客避難については、こんな話もある…大深度地下トンネルで被災した場合、ガイドウェイ下に避難通路があるのだが、そこを何キロメートルも歩かなければならない、そして避難用の立坑(シールドマシンを入れるために掘った立坑で、およそ5㎞おきにある)は深さ40m以上!地震・停電でエレベーターが故障していれば階段を昇ることになる。長大山岳トンネルの場合、これも速報通路を何キロメートルも歩いて”斜坑”までたどりつき、そこから外に出る。「例えばトンネル中央の、品川から一五〇㎞地点付近だった場合、最寄りは西俣斜坑だが、トンネルから地表までの標高差は約三二〇mで長さは約三・五㎞もある。しかも何本もの断層やもろい地層と交差しているから、強振動や地殻変動で損傷して通れないおそれがある。(中略)何とか地上に出られたとしても、そこは日本第六位の高峰・悪沢岳(三一四一m)の北方の尾根が大井川の支流・西俣川に落ちる標高一五三五mの高所である。夏でもたいへんだが、冬季であれば南アルプスの真っ只中の雪山の世界だ。トンネル工事の施工ヤードが整備されたり、作業員宿舎が避難所に改装されたりするのかもしれないが、薄着でリニア新幹線から脱出した乗客が長く居られるところではない。しかし、西俣二条口から登山基地の二間小屋(冬季は無人)まで一時間歩かねばならず、そこから大井川鉄道井川線の終点・井川駅の北方の最奥集落・小河内および田代までは徒歩で実に八時間くらいかかる。」(p115~116)
おお、おそろしい!…新幹線からの避難だから、避難した乗客数は数百人!それもヘリが使えない山岳地帯で孤立するというのである。
トンネルばっかりのリニア中央新幹線は、弱点だらけ…あと人口縮小時代に、東京―大阪間を飛行機より遅い時間で大量の人員を運ぶ需要がどれだけ出てくるのか?JRおよび国は、とっととリニア中央新幹線から撤退して、今使われている資金、資材、労働力、機械を真の防災対策に振り向けるべきであろう。
前延長の86%がトンネル区間…これは土木工事を進捗させるうえでネックになるということを書いたが、トンネルばっかりというのは災害、特に地震災害でも問題である。もっとも地震そのものでトンネルがぶっ壊れる…ということはまずない…地下構造は地震の時は安全…という話もある。だが、リニア中央新幹線の場合は違ってくる。
「リニア新幹線と南海トラフ巨大地震(石橋克彦 集英社新書 2021年6月)」によれば、リニア中央新幹線は最大クラスの南海トラフ大地震が起こった時、震度6以上が起こるであろう区域を通過する。1854年の「安政東海地震」および1923年「大正関東地震」で、甲府盆地南西部では震度6~7の震度分布があったとされる。こうしたところをリニア新幹線は通過する。しかもそのあたりは、曽根丘陵断層帯と、糸静線断層帯南部区間という活断層帯があるのだ。
![リニア新幹線と南海トラフ巨大地震 「超広域大震災」にどう備えるか (集英社新書) [ 石橋 克彦 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/1719/9784087211719_1_2.jpg?_ex=128x128)
リニア新幹線と南海トラフ巨大地震 「超広域大震災」にどう備えるか (集英社新書) [ 石橋 克彦 ]
リニア中央新幹線は、南海トラフ地震が起こった際の東海道新幹線のバックアップとしても”期待”されているらしいのだが、この事実を鑑みるとそんな機能は期待できない。(北陸新幹線ならなんとかバックアップの機能は持てそうだ)それどころか、巨大地震で同時にうごくであろう活断層を、何本もリニア中央新幹線は横断するルートになっている。
地震のゆれそのものでトンネルは破壊されなくても、トンネルを通る活断層が動けばトンネルは破壊される。また活断層でなくても、巨大地震に伴う地殻変動…特に沈降が予測されている…が起こっても、線路は甚大な被害を受ける。
問題は、長大トンネルが破壊された場合の”復旧”である…また片側の坑口から入って「掘り直し」をしなければならない。トンネルの内部だけでなく、坑口部での土砂崩落で、坑口から埋まっている…という被害も考えられる。また、営業運転時間内に地震が起これば、リニア新幹線車両が巻き添えをくらって埋まっている…ことも想定される。そして、周辺の地域も震度6~7で被災しているので、高速道路や一般の道路、在来線鉄道にも甚大な被害が出ているだろう。そうした中、東京ー名古屋(大阪)菅輸送にほとんど特価しているリニア中央新幹線の復旧にまでリソースが回るだろうか?
著者、石橋氏は、「最悪の場合には、何ケ所かの大深度地下トンネルや山岳トンネルに閉じ込められた乗客を何日も救出できず、山岳トンネル内の被害や坑口付近の山体崩壊などでトンネル内の列車を引き出せないといった事態になるだろう。リニアの救助・復旧が重大な問題になるが、超広域が第六章で述べるような大震災に見舞われていて、東海道・山陽新幹線をはじめとするJR各社(東日本、東海、西日本、四国、九州)の在来型新幹線や在来線でも多数の被害が生じる。鉄道以外のインフラや都市・国土にも莫大な被害が出ていて、資金・労働力・機材・資材が不足するなかで、鉄道の復旧工事は在来型新幹線や在来ローカル線が優先されるだろう。したがってリニア新幹線の復旧は後回しになり、被害の程度よっては廃線もやむなしという判断を迫られるのではないだろうか。」(p119~120)と記述している。また「私は、南海トラフ巨大地震に対する東海道新幹線のバックアップとしては、次章でみるようにそもそも甲府盆地と名古屋は非常に危険だと思うが、どうしても両地をとおるのであれば、諏訪と伊那谷を経由して明かり区間をできるだけ多くした在来型新幹線方式がよいと考えていた。それでも活断層を回避することはむずかしいだろうが、地震被害を低減でき、被災した場合の救助・復旧の困難さが著しく減るはずである。」(p75)と述べている。
南海トラフ巨大地震で全体的に被災した場合の復旧も、明かり部が多いほどとっかかりやすく、多方向・多方面から進めていけるので、トンネルばっかりということはリニア中央新幹線の弱点であるといえよう。
なお、震災時の乗客避難については、こんな話もある…大深度地下トンネルで被災した場合、ガイドウェイ下に避難通路があるのだが、そこを何キロメートルも歩かなければならない、そして避難用の立坑(シールドマシンを入れるために掘った立坑で、およそ5㎞おきにある)は深さ40m以上!地震・停電でエレベーターが故障していれば階段を昇ることになる。長大山岳トンネルの場合、これも速報通路を何キロメートルも歩いて”斜坑”までたどりつき、そこから外に出る。「例えばトンネル中央の、品川から一五〇㎞地点付近だった場合、最寄りは西俣斜坑だが、トンネルから地表までの標高差は約三二〇mで長さは約三・五㎞もある。しかも何本もの断層やもろい地層と交差しているから、強振動や地殻変動で損傷して通れないおそれがある。(中略)何とか地上に出られたとしても、そこは日本第六位の高峰・悪沢岳(三一四一m)の北方の尾根が大井川の支流・西俣川に落ちる標高一五三五mの高所である。夏でもたいへんだが、冬季であれば南アルプスの真っ只中の雪山の世界だ。トンネル工事の施工ヤードが整備されたり、作業員宿舎が避難所に改装されたりするのかもしれないが、薄着でリニア新幹線から脱出した乗客が長く居られるところではない。しかし、西俣二条口から登山基地の二間小屋(冬季は無人)まで一時間歩かねばならず、そこから大井川鉄道井川線の終点・井川駅の北方の最奥集落・小河内および田代までは徒歩で実に八時間くらいかかる。」(p115~116)
おお、おそろしい!…新幹線からの避難だから、避難した乗客数は数百人!それもヘリが使えない山岳地帯で孤立するというのである。
トンネルばっかりのリニア中央新幹線は、弱点だらけ…あと人口縮小時代に、東京―大阪間を飛行機より遅い時間で大量の人員を運ぶ需要がどれだけ出てくるのか?JRおよび国は、とっととリニア中央新幹線から撤退して、今使われている資金、資材、労働力、機械を真の防災対策に振り向けるべきであろう。