先日、静岡県知事がやめてもリニア新幹線の工事は遅れるという記事を書いた。静岡県のわずかな区間の工事着工ができないから、リニア中央新幹線の開通が遅れるのではなく、そもそも全体として工事が大幅に遅れている…という内容であるが、工期の遅れを取り戻すのが難しい条件がある…それは、路線がトンネルばっかりということだ。
 リニア中央新幹線品川ー名古屋間の線路延長は、285.685㎞、うちトンネル延長は約86%の246.6㎞である。のこりの14%程度が、高架橋、橋梁、切盛土工事の”明り部”の工事となる。そして現場の条件にもよるが、明り部の工事は人手、作業パーティー数さえ増やせば、工期を短縮することが可能である。例えば1パーティーで1か月1本の橋脚を完成させるとして、24本の橋脚を完成させなければならない場合、1パーティーだけの投入だと24か月、2年かかるが、2パーティ―だと12ヶ月1年、4パーティ―だと6か月半年で完成する…という感じである。もっとも昨今の人手・労働力不足だとおアーティー数を増やすことは難しいであろうが、そこそこのゼネコンであれば工期が遅れるとなった場合、赤字覚悟で人とカネをぶち込んで工事を進めるということはやるだろう。ところがトンネル工事でははそうはいかない。
 入れる場所が限られてくるからだ。トンネル工事は、坑口、あるいは斜坑・立坑からはいって一方向に進むしかない。例えば1パーティ、昼夜兼行でトンネル掘って(山の中のトンネル工事は2交代制で昼夜兼行で掘削する)月進50m進むとして、10000m(10㎞)のトンネルを両方から掘り進めると、100か月後に「貫通」する…これを短くすることは出来ない。パーティー数を増やそうとすると、トンネルの途中から掘る、すなわち斜坑・立坑をあらためて掘削せねばならず、時間もお金もかかるからだ。大深度地下をシールド工法で掘る場合も、シールドが発進する立坑の数によって入れるパーティー数は規定されるから、工事が遅れたからと言って人や機材をふやしてもどうにもならないのである。
 3年ほど前に、noteにトンネルは掘ってみないと分からないという記事を上げた…記事のなかのほうに
 トンネル掘削前の地質調査は、直接穴を掘ってコアを採取し、土砂や岩盤の状況を確認するボーリング調査と、電流や弾性波(火薬で振動を起こす)探査、地盤内部で常時発生している振動をキャッチする方法等で面的に調査する物理探査を組み合わせて行う。だがボーリング調査で深い位置を調べるためには、同じ深さまで掘らなければならないし、何本も調査するわけにもいかない。トンネルと平行に掘る水平ボーリングというのもあるが、これも何百メートルも掘るわけにはいかない。よって地質調査によってトンネル掘削する全線の地質をあらかじめ正確に認知することは出来ず、トンネル工事は「掘ってみないと分からない!?」のが現状である
 と書き、続けて
 東海北陸自動車道の飛騨トンネルは、飛騨の山奥にある籾糠山を貫く10,712mのトンネルである。先進坑(避難用トンネル)を掘削するにあたり、固い岩石の山が続くことからTBM(トンネルボーリングマシン、シールド掘削機のようなもの)で掘り進める予定であったのだが、数多くの破砕帯(断層等で岩が砕かれたりしているところ)に阻まれ、大量の湧水もあってTBMは何度も停止した。工事計画では最後までTBMで掘り進める予定であったが、貫通まで残り310mの地点でTBMがぶっ壊れて埋もれてしまう。
 てなことを書いた。TBM工法はそこそこ優秀で、新東名高速道路のトンネル工事で大活躍し、トンネル工事の工期短縮に一役かっているのだが、そのテストケースであった飛騨トンネル工事では大変な苦労をしているのだ。そして、
 なお飛騨トンネルが難工事であった事例をあげたが、中央リニア新幹線工事ではより地質が複雑そうな南アルプスをぶち抜く長大トトンネルが計画されており、そちらの工事のほうがいっそう難工事になることが予測される。また東京都内や名古屋市近郊で、大深度地下を活用したトンネル工事が行われる。これまでシールドトンネルを掘った経験がない地層を延々と掘り進むことから、今回の外環道で起こったような陥没事故や、別の事故、不具合が起こることも予想される。にっちもさっちもいかなくなる前に、事業主体であるJR東海はさっさと計画、工事を止めておくべきだろう。
 とまとめている。

 だが、工事が難しく、進捗がはかどらないばかりが、トンネルだらけのリニア中央新幹線の問題ではない。それは後編につづく…