昨日、アダルトビデオ(以下、AVと略す)への出演被害を救済するための「AV被害防止救済法案」(あるいは「AV新法」案…以下、「AV新法」と略す)が国会に提出され、内閣委員会で可決した。共同通信より
AV救済法案、内閣委で可決 今国会で成立目指し
 衆院内閣委員会は25日、アダルトビデオ(AV)の出演被害救済に向けた法案を全会一致で可決した。今国会での成立を目指す。
 採決に先立つ趣旨説明で、与党プロジェクトチーム(PT)の座長で自民党の上川陽子幹事長代理は「出演被害は将来にわたって取り返しのつかない重大な被害をもたらす」と述べ、年齢性別に関係なく救済対象とする点を強調した。
 法案では、契約成立から撮影まで1カ月、撮影から公表まで4カ月を空けることを義務付け、出演者は年齢や性別を問わず公表後も1年間は契約を解除できる(施行から2年までは公表後2年間)とした。

法案についてヒューマンライツ・ナウ事務局長、伊藤和子氏による肯定的な解説をY!ニュースからリンク…
AV被害防止救済法案が衆院内閣委員会で前回一致で可決。深刻な被害を救う法律となりうるか
 で、このリンク中に「法案をめぐる懸念」というのがあるので引用すると…
 法案をめぐっては、「契約による性交を合法化するのでは」との懸念が指摘されてきました。
 法案はこの懸念に配慮し、規制対象の定義を修正したほか(性行為を行う姿態→性行為に係る姿態と訂正など)、法律の解釈の基本原則を示す第3条で、民事上も刑事上も、違法な性行為を合法にするものではない趣旨を明確に規定しました。
 市民団体からは、そもそも性交を伴うAVや暴力的で安全でないAVを禁止すべきとの声が上がり、私も被害者の方々に接した経験から強く賛成します。
 残念ながらこの部分の合意に至らず、今回の法案には盛り込まれなかったのですが、これらの課題は、2年以内と定められた見直しに向けて議論を重ね、より良い改正を進める必要があるでしょう。(以下略)
 太字にした「契約による性交を合法化するのでは」というのは、売春防止法などとの齟齬の関連もあり、ここを中心に上記の問題点を問う支援団体やフェミニスト達からAV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション(ツイッター)が呼びかけられた。キモはこうゆうことである…
 一連の投稿に#性売買合法化反対 というハッシュタグもついているが、「AV撮影における性交を禁止すること」という、AV業界に対する抜本的な規制強化を求める運動である。この運動、ムーブメントのシンボルカラーは紫だ。
 ところがこういった「規制強化」を求める動きに対し、抗議の声をあげるフェミニストもいる。セックスワーカー差別への抗議行動である。規制強化は現在リアルで行われているセックスワーク、そしてセックスワーカーを「非合法化」「スティグマ化」「アンダーグラウンド化」するものだ!ということだ。 
    
 シンボルカラーは、赤である。

 ぶっちゃけた話をすると、私はどちらかといえば「赤」の立場を支持したい。いわゆる「セックスワーク論」である。やみくもな「規制強化」は業界のアンダーグラウンド化を産み、ワーカーを支援や法の保護から遠ざける(実際、今回の「AV新法」においても、業界のアンダーグラウンド化を懸念する声はある)し、規制強化によって職を失うワーカーにとっては死活問題でもある。だがそればかりではない。
 セックスワークの代替として、福祉・支援の強化、貧困対策も上げられる…それは絶対的に必要だ…だがセックスワークを「良くないもの」「法外のもの」として位置付けたうえでの「恩恵的」な福祉や政策は、様々な困難を生き抜いているセックスワーカーに対する、存在の否定、尊厳の否定ではなかろうか? 赤の人たちは、そこを「差別である!」と弾劾しているのである。

 だが「紫」の人たちについても、実際に被害を受けた人の支援・救済をしてきたわけだから、AV業界や性産業の存在そのものが、女性差別・性暴力・抑圧の体系であり、それを規制・解体しない限り女性差別はなくならない!という考えも充分理解できる。

 そして「赤」の主張も「紫」の主張もそれを突き詰めていくと、お互いの「存在」を否定し合わざるを得ない部分が出てくる。「赤」の立場においては「紫」の主張は存在・生存を全否定するものだから、全力で厳しい言葉を使って相手を否定するし、「紫」の立場においては「赤」の存在が被害者の声を押しつぶし、救済も否定するものとして立ち現れるから、こちらも全力で相手を否定さざるをえない。
 
 情況的に言うと「赤」の勢力はまだ少数派であるし、左の勢力も「AV業界や性産業の存在そのものが、女性差別・性暴力・抑圧の体系」であり、それを認めるわけにはイカン!という考えが主流だから、なかなか難しいものがある。また私のようなマジョリティ男性が、自らの男性として女性への抑圧構造を見ることから目を背け、安易にAV業界や性産業を肯定したいがために「赤」にすり拠るということも警戒せねばならない(「紫」による「赤」批判にそういったことも含まれる)

 「AV新法」に関しての被害者支援や「セックスワーク論」については、これからも大変な議論や考察を続けていかなければならないと思う。