その2の続きである。
第三章 偏見からジェノサイドへ
筆者は多様な形として現れるレイシズムを軽微なものから深刻なものへと5つのレベルに分け、下から上への並べた…1)偏見 2)偏見による行為 3)差別 4)暴力 5)ジェノサイド という「レイシズムのピラミッド」という図を示している。そして「偏見(レベル1)から差別行為(レベル3以上)への移行には「特に政治とモラル面で条件」がそろう必要がある」p95 と述べている。差別や偏見が、常に暴力やジェノサイドを引き起こすわけではない。移行をおさえる「反差別ブレーキ」と、差別を実行させる「差別アクセル」が存在するのだ。
加害者の差別する自由を規制する効果…反差別ブレーキ
差別行為やジェノサイドを実行させる効果を持つ社会的条件…差別アクセル
この章では「差別アクセル」について述べられている。
この章では「差別アクセル」について述べられている。
差別アクセルには、下の2種類がある。
① 利害関係…上司の命令による就職差別、外国人研修生に依存する労働、結婚差別など。最も強力なのが、資本主義経済の利害による差別アクセル
② 差別扇動…差別扇動こそレイシズムが人種化して殺す際のガキとなる権力関係。実行すればカネがもらえるわけでもなく、クビになるなど利害が絡まなくても、暴行、傷害、放火、埒、監禁、拷問、集団リンチ、レイプ、殺人に駆り立てるもの
そして、暴力を取り締まる国家のブレーキを突破してまで暴力(レベル4)を振るうには、暴力を実現「可能に」し、実行者にとって暴力が「正当だと映るような条件」が必要であると述べている。
差別扇動としての差別アクセルについて
① ヘイトスピーチ…レイシズムが暴力行為やジェノサイドになり人を殺す時の、実際にその支えになる言説。ヘイトスピーチが差別扇動であるのは、・人種を危険と結びつける・具体的な敵を名指しする・差別するマニュアルを提供するからである。
② 差別行為…これは実際に行われることで差別アクセルになり、他の誰かの差別行為の支えとなるものだ。
③ 政治(特に国家)による差別扇動…レイシズムが社会防衛の名のもとに国家の暴力装置である軍隊や警察によって実践される。実例として、ナチによるホロコースト、ルワンダ虐殺、ソ連のグレートテロル、カンボジア大虐殺、関東大震災時の朝鮮人虐殺、沖縄戦での日本軍による住民集団強制死をあげ、関東大震災時の朝鮮人虐殺について詳細に論じている。この事件は、国家が朝鮮と「放火」「爆弾」所持などを結び付けたデマであるヘイトスピーチを全国に流布し、戒厳令を出した。ここで「朝鮮人」という人種は国家公認の殺すべき「敵人種」とされたのである。そして警察、憲兵が率先して朝鮮人を虐殺、検束した。これが庶民の虐殺行為を扇動したのである。
なおジェノサイドに限らない政治による差別扇動もあって、トランプが二〇一六年大統領に当選して以降、FBIのヘイトクライム統計が急増、英国のブレグジット後もヘイトクライム統計は急増したという事例を上げている。(「反差別」のない日本には差別事件やヘイトスピーチ、ヘイトクライムの統計がないのであるが、朝鮮に対する差別政策をかかげ「慰安婦」を否定する差別主義者・安倍晋三が政権の座にいることで、差別事件、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムが日本社会にまん延したことであろう)
なお、国家によるレイシズムは絶大な差別扇動効果を持つが、限界はあるものの国家は反レイシズム法制や政策によって差別、暴力行為を抑止することもできる「国家の両義性」についても述べており、国家によるレイシズムの抑止については
第一 レイシズムが暴力以上に発展するか否かが決定的な意味を持つ。
第二 国家の行動は、レイシズム暴力をどれほど実効的に取り締まるかによって、社会のレイシズムの正当化を左右する効果を持つ…レイシズム暴力を国家が放置したり、暴力一般より寛容さをみせるようなことがあれば、レイシズム暴力、レイシズムそのものに正当性を与える。
第三 国家の反レイシズム的行動は、極右への対処にも当てはまる。
とまとめている。
とまとめている。
④ 極右…極右は「レイシズムの発生」から「レイシズムの政治化」への移行(阻止)の決定的なカギを握る「差別アクセル」である。極右は差別、ヘイトスピーチを組織してレイシズムを暴力へと転化、選挙への政治進出、キャンペーンを通じて政治、国家の差別扇動に影響を及ぼす。社会を破壊するレイシズムの組織者なのだ。
ところが日本では極右が可視化されない、なぜなら
第一 反差別が無いから、右翼と極右を引き裂く社会的圧力がない。
第二 反ファシズム運動の歴史的伝統も社会変革を成就するだけの強力な労働運動・社会運動がないので「敵」がおらず、わざわざ右翼と分裂して過激な極右になる動機に乏しい。
第三 国家が反差別の側に回ったことがなく、極右が反国家である必要にも欠ける。ある意味、普通の右派政党である「自民党」による政権が「極右」の政策を実行しているので、わざわざ極右になる必要もないわけだ。
それでも日本にも極右は存在しており、彼らはヘイトスピーチをSNSで恒常的に発信する右翼政治家や日本軍「慰安婦」、問題をはじめ各種歴史否定をネタにする「ヘイト本」やブログ記事を乱造する右翼作家などの「亜インテリ」や、ヘイト街宣やヘイトクライムを組織する「行動する保守」などの実行部隊である。彼らは
① 差別を暴力へと過激化させる…直接極右が加害者に命令を出したり、あるいは意思決定によって組織的に暴力を行う。
② ヘイトスピーチを過激化させる
③ 極右が組織を拡大し市民社会のレイシズム扇動に成功して影響力を持つと、選挙や議会進出によって国家がもつ巨大な差別扇動効果を左右する。
のである。
どう対抗するのか?「グラムシの陣地戦では「保守勢力も革新勢力もともにヘゲモニー実践に取り組み、両者はせめぎ合っている。その力関係は流動的であり、また諸勢力がそれぞれ内部分裂を起こしたり、複雑に離合集散する場合もある」。つまりこの錯綜する力関係のせめぎ合いのなかで、いかにして反レイシズム規範を勝ち取る闘争がヘゲモニー実践を効果的に行い、極右の差別扇動や組織活動を抑え込み、むしろ極右規制を社会に埋め込んでいけるかが問われる。」P122 と著者は述べている。(つづくよ)
![レイシズムとは何か (ちくま新書 1528) [ 梁 英聖 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/3532/9784480073532.jpg?_ex=128x128)
レイシズムとは何か (ちくま新書 1528) [ 梁 英聖 ]
どう対抗するのか?「グラムシの陣地戦では「保守勢力も革新勢力もともにヘゲモニー実践に取り組み、両者はせめぎ合っている。その力関係は流動的であり、また諸勢力がそれぞれ内部分裂を起こしたり、複雑に離合集散する場合もある」。つまりこの錯綜する力関係のせめぎ合いのなかで、いかにして反レイシズム規範を勝ち取る闘争がヘゲモニー実践を効果的に行い、極右の差別扇動や組織活動を抑え込み、むしろ極右規制を社会に埋め込んでいけるかが問われる。」P122 と著者は述べている。(つづくよ)
![レイシズムとは何か (ちくま新書 1528) [ 梁 英聖 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/3532/9784480073532.jpg?_ex=128x128)
レイシズムとは何か (ちくま新書 1528) [ 梁 英聖 ]