第一章 文明は感染症のゆりかごであった。
プロローグにもあるように、急性感染症は隔離された小規模な人口集団では流行を維持できない。森からでてきた初期人類は小規模な集団で狩猟採取をしながら暮らしていたから、急性感染症は流行を維持できない。病原体が宿主体内で長期間生存できるか、ヒト以外に宿主を持つ感染症…ハンセン病やマラリア、住血吸虫症などが、初期人類が保有していた感染症なのであろう。また他の寄生虫症や炭疽症、ボツリヌス症(どちらも土中に潜む細菌による人獣共通感染症)があり、これらが先史時代の重要な感染症であったろう。これらの感染症を除けば、先史時代の人類は、がんの原因となる化学物質などへの暴露や、運動不足などの生活習慣病は少なく、比較的良好で健康的な生活を送っていたと考えられる。
1万1千年前、農業・定住が開始され、野生動物の家畜化が始まり、人口が増えると、感染症という“試練”が現れる。定住地において人々が排泄する糞便が居住地周辺に集積され、回虫症や鉤虫症の感染環が確立する。農耕によって貯蔵される食物はネズミなどの小動物のエサとなり、ノミやダニを通してある種の感染症を持ち込む。野生動物を家畜化すれば、インフルエンザや麻疹、百日咳などの動物に起源をもつ感染症が持ち込まれることになる。なお結核は、ヒトからウシに持ち込まれたものだそうな。
家畜に起源をもつ病原体は、増殖した人口という格好の土壌を得て、ヒト社会へ定着していった。専門的な言葉で言えば、病原体は新たな「生態学的地位」を獲得した、ということになる。(p35)
新たな生態学的地位の出現は、先カンブリア代の生物が多様化したような適応拡散、進化的変化をもたらす。マラリア原虫のミトコンドリア遺伝子の研究によれば、マラリア原虫が2000万年から4000万年前に急速に多様化した可能性が示されており、これは哺乳類の適応拡散の時期と一致する。哺乳類が適応拡散して宿主が爆発的に増えたため、マラリア原虫も新たな生態学的地位を獲得し、原虫の多様化引き起こされたのかもしれないということである。
農耕の開始は食糧増産と定住をもたらした。食糧増産と定住は人口増加をもたらし、これが新たな感染症の流行に格好の土壌を提供した。一方、野生動物の家畜化は、耕作面積の拡大などを通じて食糧増産に寄与した。同時に、本来野生動物を宿主としていた病原体は、ヒトという新たな宿主(生態学的地位)を得て、多様性を一気に増加させた。(p36~37)
要するに、文明が沢山の「感染症」を生み、多様化させたのだ…ということである。
つづくよ…

