11日夜、エルおおさかで行われた「宝島社裁判」傍聴を!絶版と謝罪を求める支援者総決起集会に参加してきた。十数名のこじんまりしたものであったが、「キュア相談所」代表や原告の村上薫さん、弁護士さんのお話しを含め、内容は非常に濃いものであった。またパギやんこと趙博さんをはじめとする、支援のミュージシャンによる歌の披露もあった。
 ここで、宝島新書から出版された「大阪ミナミの貧困女子」がなぜ問題なのかを説明していきたいと思う。登場人物は村上さんの他、男性フリーライター・編集者のA氏、村上さんと同じく女性フリーライターのBさん、キュア相談所関係者のC氏である。
 村上さんとBさんは「キュア相談所」で活動し、コロナ禍で深刻になるミナミの窮状、とくにそこで働かざるを得ない女性従業員、キャストの問題に心を痛め、発信を続けてきた。そこにフリーライターA氏が、そのことを訴える本を出さないかと持ち掛けてきたのが始まりである。チラシにもあるように「コロナ禍で苦境にあえぐミナミの女性キャスト、従業員の苦境を訴え、政治による解決を求めるとともに、ミナミの街の活性化に役立てばという出版の企画」だったのである。
 ところが出来上がった本を見ると「はじめに」にはこんなことが書いてある…
 いままで、高値の花で届かなかった女性たちが、驚きのお店で出会えるかもしれない。それを求めて、群がる男たちも多い。(p5)
 明日、あなたが会う女の子かもしれない。そんな女の子の気持ちを慮ったら、思わず愛おしくて、抱きしめたくなるだろう。(p7)
 は?何これ⁉
 同じ時期にお笑い芸人が言ったアレな発言と同じ…まるでコロナで値崩れした”女の子”を買って応援⁉みたいなコンセプトの本になってしまっている(怒)
大阪ミナミの貧困女子
 本の帯も酷いもので「コロナ自粛の大阪で、体を売るしかない女子たちの物語 風俗だけが救ってくれた」となっている。しかしこの書き方は、これまでセックスワーカーや支援者たちが様々な議論や苦闘をしてきた地平、すわなち「セックスワークは身体を売っているのではなく、サービスを売っている」というものに反するものだ。また本の内容は「風俗」業だけではなく、接待を伴う飲食業も含んでいるのだが、それもまとめて「風俗」扱いされているのだ。
 本の作成・取材過程でも問題は起きた。取材対象として、キュア相談所関係者のC氏の娘さんが経営するラウンジをA氏に紹介したのであるところがラウンジに現れたA氏は態度がでかく、すごくいい加減な形で取材を行った。そのためC氏の娘さんは激怒し、村上さんとC氏に苦情という形で持ち込まれることになる。また出来上がった原稿は娘さんの性格をいろいろ詮索したり、なぜかC氏の政治的遍歴をあれこれあげつらう内容(もちろん当初の本の作成意図からそんな記述は必要はない)で、これについてはC氏も激怒し、原稿を修正させている(だから本の内容ではそれほど酷くはない)。
 さて村上さんが書いた部分である…村上さんは自分の経験を1章分、当初のコンセプトに基づき書いたのであるが、それがA氏によって大幅に改ざんさせられた。内容が差別的で酷いものになっていたのだ。それを出版までの短い時間内で「校正」しろと言って来た。全く違う原稿なのだから、直せと主張したら、もう時間が無いので内容を変えることは難しいと言う。村上さんは「それならば出版の企画から降りる」と言ったら、もう本の見本が出来て、村上薫の著者名も登録しているのでどうにもならない。本書は1万1千部ぐらい刷ることになっている、出版がフイになったら1千万円の損害賠償を請求されるかもしれない…などと恫喝してきた。それでは少なくとも差別的な表現を直せと要求したら、最終のゲラを村上さんが確認する前に、印刷にまわして出版されてしまったのである。
 ではどんな表現になっているのか?
 そのような売れないホステスはレベルの低い店に身を落としていき、時給の安い店へと流れていかざるを得ません。一方、大阪で言えば北新地、東京でいえば銀座の高級ホステスになれば「勝ち組」となり、貧困から抜け出していけるのです。(p40)
 感染拡大をはじめとするコロナ被害の元凶は、中国人観光客に対して利益のために入国禁止の措置をとれなかった政府の責任です。(p45)
 村上さんをリアルで知っている人なら、彼女が今どき珍しいど真ん中左翼であることは誰もが認めることであり、また狭山再審の運動を積極的に行っている彼女が「レベルの低い店」「勝ち組」などという差別的な言葉はまず使わないし、感染拡大を「中国人観光客」に結びつけることは絶対にないことは断言できるだろう!それぐらいオカシナ本なのだ!
 本書は「村上薫 川澄恵子」が著者ということになっている。しかし後者の「川澄恵子」は、もともとBさんのために用意されたペンネームである。ところがそれにBさんが難色を示したため、登録したペンネームが浮いてしまった…そこで男性のA氏が書いた原稿を、あたかも31歳の女性ライターが書いたようにして「女性ライターたちが取材している(はじめに)」とアピールポイントにしているところだ。実際はA氏の「男性目線」が満載の記述になっているのだが、そんな虚偽もこの本の問題点の一つだ。これを指摘すると、宝島社は裁判過程でA氏の原稿を女性アンカーがリライトしたのであり、川澄恵子はその女性ライターのペンネームであるとの理屈を持ち出してきた!そんなことは誰も知らされていないし、アンカーが表に出るということも聞いたことがない。
 また本書ではコラム欄に、本書がキュア相談所の全面的な協力を得て制作されたとあるのだが、このような差別的な本を出すことに協力したとあっては、ミナミで働く人の相談事業を行うキュア相談所の信用にもかかわること、またコラムに代表の携帯電話番号が許可なく掲載されていることも問題となっている。
 ちなみにA氏はこういった「夜の街」を取材した経験はなく、遊んだりした経験もないようで、この本を読んでも上っ面な表現や記述が目立つ…まだ風俗関係の紹介記事を書いてきたライターのほうが(間違ったコンセプトではあれ)深いものを書くであろう…本当につまらない本になっていると思う。
 もっともA氏は本を作成するにあたり、うるさいことを言う村上さんではなく、御しやすいBさんを窓口にしてことを進めていたそうだ。C氏が激怒した部分については原稿を修正したものの、女性である村上さんやBさんの言い分には耳を貸さず(ここも女性差別がこの本を成立させている要素であるということである)自分は宝島社の編集者という大きな力を持っているものから、素人の女性ライターを守るという不遜な態度をとっていたようだ。その過程でBさんは精神的に追い詰められてしまい、この本が出版される前後から体調不良で活動ができなくなってしまった。またこうしたA氏からBさんへのいじめ・ハラスメントに対し、村上さんをはじめキュア相談所の人たちが助け舟を出すことが出来なかったことも問題であった。そのためBさんはこの本について触れられることを極度に嫌がるようになり、裁判に参加することを拒否しているのが実情である。村上さんが書いた部分は本の中では1章分と少ないこともあって、裁判では不利な状況である。本来はA氏の行状も裁判に訴えたいところではあるのだが、今のところA氏を使ってデタラメな本を出版した宝島社の責任を問う裁判ということになっている。

 集会の中で弁護士さんから、裁判官というのは「世間知らず」なので、私たちだったらこの本が「差別的」だということが理解できるが、裁判官は理解できない「なんでこれが差別なの?」となる。どうやって裁判官に差別であると理解させるかということが大切になると話された。大変むずかしい裁判になるのだ。
 あと裁判のキャッチコピーは「宝島社『大阪ミナミの貧困女子』差別出版裁判ー絶版と謝罪を求める」とすることを、集会の中で決定した。また女性参加者から、女性差別が主題なのに、参加者が男性ばっかりにならないで欲しい、また女性の意見を押さえることがないようにして欲しいという、厳しい意見も出てきた。もっともなことである。

 それでは第二回の公判は2月16日(水)10:30~ 大阪地裁807号法廷である。10時に法廷前に集合ということで、皆さま結集をよろしくお願いするものである。